新入生の皆様へ ~学長メッセージ~

更新日: 2020年04月07日

ご入学おめでとうございます。

公立諏訪東京理科大学の教職員を代表して、新入生の皆様・ご家族の皆様に心からお祝いを申し上げます。
本年度は、新型コロナウイルス感染予防のため入学式が中止となり、紙上でのご挨拶となりましたこと大変残念に思っています。

さて、今、富の主たる源泉がモノから知識や情報、データに移り、後者の創り出す価値が増大している時代だと思います。それを牽引しているものの代表がAI、IoTそしてロボット技術などだと思います。

その中で、日本を含む高所得国、中所得国の深刻な問題は、同時に進行している仕事の内容に起因する所得格差の拡大だと考えています。
世界全体では貧困層が減少しましたが、先進国では所得格差は拡大し、その格差の主因は、先程述べた富の源泉がモノから知識や情報、データに移ったからではないかと言われています。知識や技術を持ち、それを活用できる人が豊かになる時代だと考えられています。

我々は、こうした状況を踏まえ、皆さんが社会で活躍するためには、AIを中心とした情報技術を基本技術として身につけることが重要だと考えています。そこで、今年度より、全学科、全コースでAIの実習をおこなうようにしました。ぜひ、AI等の技術をこの大学で身につけてください。
でも、我々が皆さんに期待しているのはそれだけではありません。

AIは囲碁や将棋で人に勝てても、囲碁や将棋は創れません。
人は囲碁や将棋でAIに負けますが、囲碁や将棋を創りました。

過去を学んで予測する、あるいは、あるルールのもとで最適解を見つける。
AIはこうしたことは得意です。
しかし、過去に事例のないことや、ルールが分かっていないなかで解を見つけるのは不得手です。そうした方面でも皆さんに活躍して欲しいと願っていますし、社会はそうした人材を求めています。

参考になる人物がいます。パスツールです。
今、新型コロナウイルスによる感染症対策として、そのワクチンの開発が急ピッチで進められています。皆さんがご存じのようにパスツールは、ワクチンによる免疫療法を開発した人物です。

パスツールは、1822年に東フランスのドールという小さな町で生まれました。
小学校・中学校では、絵がじょうずなだけで、成績はあまりよくなかったそうです。
しかし、ある日、中学校の先生に、思いがけないことを勧められました。
「君は、ものを深く考える、すばらしい才能をもっている。将来は、大学へ進んだらどうだね」と。この言葉がパスツールを変えたといわれています。
我々も、このように人の長所を見抜き、その人の発展のきっかけを与えることができるすばらしい教員でありたいと願っています。

さて、パスツールは、勉強し、パリへ出て、大学へ入学しました。このころから、パスツールの成績はぐんぐんよくなり、卒業してからは、大学の教員・研究者となりました。

パスツールはあるとき、ニワトリのコレラの研究に取り組みました。微生物であるコレラ菌の液を元気なニワトリに注射して、病気の伝染の仕方を調べていたときのことです。
間違えて、すこし古い液を注射してしまいました。そのせいか、コレラにかかって死ぬはずのニワトリが死にません。そのうえ、この古い液を一度注射されたニワトリは、その後、何度注射しても、もうけっしてコレラにはかかりませんでした。
どうです、AIはこのような失敗はしないと思いませんか?

失敗するのも人間らしいところですが、パスツールはそれだけで終わりませんでした。
パスツールは「毒の力が弱い菌を注射すると、体に、その病気に対する抵抗力ができるのだ。それなら、元気なときに毒の力が弱い菌を注射しておけば、伝染病を防ぐことができるのでは」と考えました。
伝染病を予防する方法、ワクチンによる免疫療法を発見したのです。
これもAIには難しそうですね。

おそらく、この時代に、優秀なAIがあったとしても、過去の事例がないので、または考え方のルールがないので、予防接種という方法をAIは発見できなかったと思います。

皆さんは、AIを使いこなすだけでなく、ぜひAIを越えた発見等ができる人材となってください。そのための第一歩をこの大学で踏み出すことを願っています。

 

令和2年4月
公立諏訪東京理科大学学長 小越澄雄